2人で同じ音楽を聴いたり、1台のタブレットで映画を鑑賞したりする際に、「ワイヤレスイヤホンを2台同時に接続できたら便利なのに」と感じたことはありませんか。
しかし、iPhoneやAndroidスマートフォンで設定しようとしても、やり方が分からず戸惑ってしまうことが多いのが現実です。
実は、Bluetoothイヤホンの2台同時再生は、特定のデバイスや方法を用いれば実現可能です。
この記事では、Bluetoothイヤホンを2台同時に接続するための基本的な知識から、iPhone、Android、パソコン(PC)といったデバイスごとの具体的な設定方法、さらには最も確実性の高い代替案まで、分かりやすく解説していきます。
Bluetoothイヤホンの2台同時再生に関する基本

ワイヤレスイヤホンを2台同時に接続できますか?
はい、特定の条件下であればワイヤレスイヤホンを2台同時に接続することは可能です。
しかし、これはBluetoothの標準的な機能ではないため、どのようなスマートフォンやイヤホンでも無条件にできるわけではありません。
本来、音楽再生に使われるBluetoothの規格(プロファイル)である「A2DP」は、1台の送信デバイス(スマートフォンなど)から1台の受信デバイス(イヤホン)へ、1対1で音声を送ることを基本として設計されています。
このため、OSやデバイスメーカーが特別な機能を実装していない限り、1つの音源を2つのイヤホンに分配することはできないのです。
現在、2台同時再生を実現する方法としては、主にApple製品の「オーディオ共有」機能、Samsung製スマートフォンの「デュアルオーディオ」機能、そして外部機器である「Bluetoothトランスミッター」を使用する三つの選択肢が挙げられます。
この記事では、それぞれの方法について詳しく掘り下げていきます。
iPhone1台にイヤフォンを2台繋げられますか?
はい、iPhoneが対応機種であれば、1台のiPhoneに2台のイヤホンを接続して同時に音声を再生できます。
この機能は「オーディオ共有」と呼ばれ、AppleがiOSに独自に組み込んでいる便利な機能の一つです。
オーディオ共有を利用することで、友人や家族と同じiPhoneで再生している音楽や動画の音声を、それぞれのイヤホンで同時に楽しむことが可能になります。
ただし、この機能を利用するにはいくつかの条件があります。
まず、お使いのiPhoneがiPhone 8以降のモデルで、OSがiOS 13.1以降にアップデートされている必要があります。
さらに、接続するイヤホンもApple製のAirPodsシリーズ、またはApple傘下であるBeatsブランドの一部のワイヤレス製品に対応が限られています。
これらの条件を満たしていれば、非常に簡単な操作で音声の共有を開始できるのが大きな魅力です。
Bluetoothイヤホンを2台同時再生できるアプリはある?
結論から申し上げますと、1台のスマートフォンから2台のBluetoothイヤホンへ直接音声を分配・再生する、という目的を確実に達成できる信頼性の高いアプリは、現状ではほぼ存在しません。
App StoreやGoogle Playで検索すると、デュアルオーディオや同時再生を謳うアプリが見つかることがありますが、その多くは期待通りの動作をしないのが実情です。
その理由として、スマートフォンの音声出力をOSレベルで制御することは、通常のアプリに与えられた権限では技術的に非常に困難であることが挙げられます。
仮にそうした機能を持つアプリがあったとしても、多くはWi-Fi経由で複数のスマートフォンを使って音楽を同期再生するものであったり、特定の改造を施した端末でしか動作しなかったりと、手軽に利用できるものではありません。
安易に提供元不明のアプリをインストールすることは、セキュリティ上のリスクを伴う可能性もあります。
したがって、2台同時再生を実現したい場合は、アプリを探すよりも、お使いのデバイスに搭載されている正規の機能(iPhoneのオーディオ共有など)や、専用のハードウェアを利用する方法が最も安全かつ確実と言えるでしょう。
iPhoneのBluetooth2台同時再生はAirPods以外も可能?
はい、AirPods以外のイヤホンでも、一部の製品であればiPhoneの2台同時再生機能を利用することが可能です。
具体的には、Apple傘下であるBeatsブランドの対応ワイヤレスイヤホンやヘッドホンが、この機能の対象となります。
iPhoneの2台同時再生機能「オーディオ共有」は、Appleが独自に開発した「W1チップ」や後継の「H1」「H2」といったチップを搭載した製品間で、シームレスな連携を実現する仕組みです。
この高性能なチップが、AirPodsシリーズだけでなく、一部のBeats製品にも搭載されています。
そのため、例えばBeats Fit Pro、Powerbeats Pro、Beats Solo Proといった製品をお持ちであれば、AirPodsと同様にオーディオ共有機能を使って2台同時再生ができます。
一方で、Sony、Bose、Anker、JBLといったサードパーティ製のイヤホンは、これらのApple独自チップを搭載していないため、残念ながらオーディオ共有機能の対象外です。
iPhoneで2台同時再生を考えている場合は、接続したいイヤホンがAirPodsシリーズか、対応するBeats製品であるかを確認する必要があります。
AndroidでのBluetoothイヤホン2台同時再生
AndroidスマートフォンにおけるBluetoothイヤホンの2台同時再生は、一部の特定の機種でのみ可能というのが現状です。
全てのAndroidデバイスで利用できる標準機能ではありません。
この機能を実現している代表的なメーカーがSamsungです。
Samsungの一部のGalaxyスマートフォンには、「デュアルオーディオ」という独自の機能が搭載されています。
これにより、2台の異なるBluetoothスピーカーやイヤホンに同時に接続し、同じ音源を再生することが可能です。
この機能は、Bluetooth 5.0以降を搭載した比較的新しいGalaxy SシリーズやNoteシリーズ、Zシリーズなどで利用できます。
一方で、GoogleのPixelシリーズやSONYのXperiaシリーズ、SHARPのAQUOSシリーズといった他の多くのAndroidスマートフォンには、現時点でデュアルオーディオのような機能は標準搭載されていません。
しかし、今後の展望として「LE Audio」という新しいBluetooth規格とその中の「Auracast(オーラキャスト)」というブロードキャスト機能が期待されています。
これが普及すれば、将来的にはメーカーを問わず、多くのAndroidデバイスで2台以上のイヤホンへの同時再生が標準的にサポートされる可能性があります。
Bluetoothイヤホンの2台同時再生、その具体的な方法

パソコンでのBluetoothイヤホン2台同時再生
パソコン(PC)であれば、WindowsとmacOSのどちらでもOSの標準機能を利用してBluetoothイヤホンの2台同時再生を試みることが可能です。
ただし、スマートフォンでの設定に比べて手順が複雑で、PCの環境によっては安定しない場合がある点には注意が必要です。
Windowsの場合:「ステレオミキサー」を利用
Windowsでは、パソコン内で再生されている音を仮想的な入力デバイスとして扱う「ステレオミキサー」という機能を使います。
- タスクバーのスピーカーアイコンを右クリックし、「サウンド」設定を開きます。
- 「録音」タブを選択し、何もないところを右クリックして「無効なデバイスの表示」にチェックを入れます。
- 表示された「ステレオミキサー」を右クリックし、「有効」にします。
- 再度「ステレオミキサー」を右クリックして「プロパティ」を開きます。
- 「聴く」タブに移動し、「このデバイスを聴く」にチェックを入れます。
- 「このデバイスを使用して再生する」のプルダウンメニューから、2台目のBluetoothイヤホンを選択し、「適用」をクリックします。 この方法の注意点として、音声に遅延が発生しやすく、動画視聴などには不向きな場合があります。
macOSの場合:「Audio MIDI設定」を利用
macOSでは、より直感的に複数のオーディオ出力をまとめることができます。
- 「アプリケーション」フォルダ内の「ユーティリティ」から「Audio MIDI設定」を起動します。
- 左下の「+」ボタンをクリックし、「複数出力装置を作成」を選択します。
- 右側のリストに表示されたオーディオデバイスの中から、使用したい2台のBluetoothイヤホンにチェックを入れます。
- 音のズレを補正するため、「音ずれ補正」にもチェックを入れておくことをお勧めします。
- 「システム環境設定」の「サウンド」を開き、「出力」タブで、先ほど作成した「複数出力装置」を選択します。
どちらのOSでも、この設定はPCのスペックやドライバの状況に左右されるため、上級者向けの方法と言えるでしょう。
ワイヤレスイヤホン2台同時接続のやり方と方法
これまでデバイスごとの機能を紹介してきましたが、機種やOSに依存せず、最も確実かつ汎用性の高い方法が、外付けの「Bluetoothトランスミッター」を使用することです。
Bluetoothトランスミッターとは、Bluetooth機能を持たないテレビやオーディオプレーヤーなどの音声を、ワイヤレスイヤホンに送信するための機器です。
このトランスミッター製品の中には、1つの音源を2台のイヤホンに同時に送信できる「2台同時接続(デュアルリンク)」機能を搭載したモデルが数多く存在します。
Bluetoothトランスミッターの利点
- 汎用性が非常に高い: スマートフォンやPCはもちろん、テレビ、ゲーム機(Nintendo Switchなど)、プロジェクターといった、3.5mmイヤホンジャックやUSBポート、光デジタル出力端子を持つほぼ全ての機器で利用できます。
- 設定が比較的簡単: デバイスの複雑な設定は不要で、トランスミッターとイヤホンをペアリングするだけで使用を開始できます。
- 安定した接続: 2台同時接続専用に設計されているため、OSの機能を利用する方法よりも安定した接続が期待できます。
Bluetoothトランスミッターの選び方
2台同時再生を目的としてトランスミッターを選ぶ際は、以下のポイントを確認することが重要です。
確認ポイント | 解説 |
2台同時接続対応 | 製品仕様に「2台同時接続」や「デュアルリンク」といった記載があることを必ず確認します。 |
対応コーデック | 動画視聴やゲームで使う場合、音の遅延は致命的です。映像と音のズレを最小限に抑える「aptX Low Latency (LL)」や「aptX Adaptive」といった低遅延コーデックに対応した製品を選ぶことを強く推奨します。 |
接続端子 | 使用したい機器に合わせて、3.5mmオーディオケーブル、USB、光デジタルなど、必要な接続端子を備えたモデルを選びましょう。 |
少し費用はかかりますが、確実性や対応機器の幅広さを考えれば、トランスミッターは非常に有力な選択肢となります。
Bluetoothイヤホン2台同時再生の方法:iPhone編
前述の通り、iPhoneで2台同時再生を行うには「オーディオ共有」機能を利用します。
ここでは、その具体的な設定手順を、初めての方でも分かるように詳しく解説します。
まず、オーディオ共有を始める前に、以下の条件が満たされているかを確認してください。
- iPhone: iPhone 8 以降のモデル
- iOSバージョン: iOS 13.1 以降
- イヤホン: AirPodsシリーズ、または対応するBeats製ワイヤレス製品
準備が整ったら、以下の手順で設定を進めます。
- まず、1台目のAirPods(またはBeats製品)を通常通りiPhoneに接続し、音楽や動画の再生を開始します。
- iPhoneの画面右上から下方向にスワイプして、「コントロールセンター」を表示させます。
- 再生コントロールウィジェット(音楽のタイトルなどが表示されている部分)の右上にある、三角形と円が重なったような「AirPlay」アイコンをタップします。
- 接続中のイヤホン名の下に表示される「オーディオを共有」というボタンをタップします。
- ここで、2台目のイヤホンをiPhoneに近づけるよう指示が表示されます。2台目のAirPodsを充電ケースに入れたまま蓋を開けてiPhoneに近づけるか、Beats製品の場合は電源を入れてペアリングモードにします。
- iPhoneの画面に2台目のイヤホンが認識され、ポップアップが表示されますので、「オーディオを共有」をタップします。
これで設定は完了です。
2台のイヤホンから同じ音声が流れるようになります。
また、コントロールセンターの音量スライダーを操作すれば、2台のイヤホンの音量を個別に調整することも可能です。
Bluetoothイヤホン2台同時接続の方法:iPhone設定
iPhoneのオーディオ共有は非常に優れた機能ですが、時には2台目のイヤホンがうまく認識されないなど、設定がスムーズにいかない場合もあります。
ここでは、設定を円滑に進めるための準備と、よくあるトラブルへの対処法を解説します。
うまく接続するための事前準備
オーディオ共有を試す前に、以下の点を確認しておくと、トラブルの発生を防ぎやすくなります。
- ソフトウェアのアップデート: iPhoneのiOSと、イヤホン(特にAirPods)のファームウェアが最新のバージョンになっているか確認しましょう。古いバージョンのままだと、機能が正常に動作しないことがあります。
- 十分な充電: iPhoneと、接続したい2台のイヤホン両方のバッテリーが十分に充電されていることを確認してください。バッテリー残量が少ないと、接続が不安定になる原因となります。
- Bluetoothの再起動: 事前にiPhoneの「設定」アプリからBluetoothを一度オフにし、数秒待ってから再度オンにしてみるのも有効な場合があります。
トラブルシューティング:接続できない場合
もし、上記の手順通りに進めても2台目のイヤホンが認識されない場合は、以下の対処法を試してみてください。
- イヤホンを近づけ直す: 2台目のイヤホンを一度iPhoneから離し、もう一度ゆっくりと近づけてみてください。
- イヤホンのリセット: Beats製品の場合はペアリングモードにし直します。AirPodsの場合は、ケースの蓋を閉めて15秒ほど待ってから、再度蓋を開けて試します。
- iPhoneの再起動: 最も基本的ながら効果的な方法です。一度iPhoneの電源を完全に切り、再度起動してからオーディオ共有を試してみてください。
- ネットワーク設定のリセット: どうしても解決しない場合の最終手段として、「設定」>「一般」>「転送またはiPhoneをリセット」>「リセット」>「ネットワーク設定をリセット」があります。ただし、この操作を行うと保存されているWi-Fiのパスワードなども全て消去されるため、実行には注意が必要です。
Bluetoothイヤホン2台同時再生の基本的な仕組み
Bluetoothイヤホンの2台同時再生は、一体どのような技術で実現されているのでしょうか。
その仕組みは、大きく分けて「分配(スプリット)方式」と「ブロードキャスト方式」の2種類に大別されます。
分配(スプリット)方式
現在主流となっているのが、この分配方式です。
iPhoneの「オーディオ共有」やSamsungの「デュアルオーディオ」、そして市販のBluetoothトランスミッターがこの方式を採用しています。
この仕組みでは、まず送信側のデバイス(スマートフォンやトランスミッター)が、再生したい音楽データを1つ受け取ります。
次に、デバイス内部のプロセッサがその音声データを複製し、2つの独立したデータストリームを生成します。
そして、それぞれのデータストリームを、接続されている2台のイヤホン(イヤホンA、イヤホンB)に対して個別に暗号化し、それぞれのBluetooth接続を通じて送信します。
つまり、送信デバイスが2台のイヤホンと個別に1対1の通信を同時に行っている、というイメージです。
この方式は既存のBluetooth技術の応用で実現できる反面、送信側のデバイスには2系統分の処理が要求されるため、ある程度の処理能力が必要になります。
ブロードキャスト方式
こちらは、次世代のBluetoothオーディオ規格「LE Audio」で導入された「Auracast(オーラキャスト)」という機能が採用する、全く新しい仕組みです。
この方式は、ラジオ放送に例えると分かりやすいでしょう。
送信デバイス(Auracastブロードキャスター)は、音声データを不特定多数に向けて一方的に「放送」します。
受信側のイヤホン(Auracastアシスタント)は、その放送されている電波を「受信(チューニング)」するだけで音声を聞くことができます。
この方式の最大の利点は、接続台数に制限がないことです。
2台に限らず、3台でも10台でも、範囲内にいる対応イヤホンであれば理論上何台でも同時に同じ音声を聞くことが可能です。
また、受信側はペアリングという面倒な手順が不要になります。
このAuracastは、空港や駅でのアナウンス、博物館での音声ガイド、スポーツバーでの音声共有など、公共の場での活用が大きく期待されており、将来的には個人利用においても2台同時再生の標準的な方法となる可能性があります。
まとめ:Bluetoothイヤホンの2台同時再生を理解して活用しよう
- Bluetoothイヤホンの2台同時再生は特定の条件下でのみ可能である
- iPhoneでは「オーディオ共有」機能で実現できる
- オーディオ共有はAirPodsシリーズおよび一部のBeats製品に対応する
- AndroidではSamsungの「デュアルオーディオ」機能が代表的である
- ほとんどのAndroid機種やPCでは標準で2台同時再生はできない
- PCではOSの高度な設定で可能だが、遅延などの課題がある
- 1台のスマホから2台に音声を送る専用アプリはほぼ存在しない
- 最も確実で汎用的な方法は「Bluetoothトランスミッター」の利用である
- トランスミッター選びでは「2台同時接続」と「低遅延コーデック」の対応が重要だ
- 将来は「LE Audio Auracast」が標準的な解決策になる可能性がある