近年、3Dプリンターの進化は目覚ましく、より手軽に、より高機能なモデルが次々と登場しています。
特に、複数の色や素材を一度に扱えるマルチカラー3Dプリンターは、クリエイターの表現の幅を大きく広げる可能性を秘めていますが、高価で手が出しにくいというイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
そんな中、Anycubicから登場した「Kobra S1 Combo」は、マルチカラー印刷、高速性、密閉構造、さらにはフィラメント乾燥機能まで備えながら、驚きのコストパフォーマンスを実現した注目のモデルです。
この記事では、「Anycubic Kobra S1 Combo」のレビュー情報を徹底的に調査し、その特徴やスペック、価格、そして購入前に知っておきたい注意点まで、網羅的に解説していきます。
これから3Dプリンターの導入を検討している方や、新しい機種への買い替えを考えている方は、ぜひ参考にしてください。
Anycubic Kobra S1 Comboのレビュー解説|基本性能と特徴
Anycubic Kobra S1 Comboの主な特徴
Anycubic Kobra S1 Comboは、単なる3Dプリンターにとどまらない、多彩な機能を統合したモデルとして注目されています。
最大の特徴は、付属の「ACE Pro」システムとの連携によるマルチカラー・マルチマテリアル印刷です。
ACE Proを1台使用することで最大4色、2台連携させることで将来的には最大8色までの複雑で鮮やかな造形を一度のプリントで完成させることが可能になります。
これにより、従来のようにパーツごとに印刷して塗装・接着するといった手間を大幅に削減できます。
さらに、このACE Proにはフィラメント乾燥機能が搭載されています。
印刷中もフィラメントを最適な状態に保つことができるため、特に湿度の影響を受けやすい素材でも安定した高品質なプリントを実現します。
この乾燥機能は、他の主要メーカーの競合機種には見られないユニークな利点と言えるでしょう。
構造面では、高速かつ安定した印刷を可能にするCoreXY構造と、筐体を覆う密閉型エンクロージャーを採用しています。
これにより、印刷中の振動を最小限に抑えつつ、ABSやASAといった反りやすい高難度フィラメントの印刷成功率も向上させています。
その他にも、工具不要で交換可能なホットエンドや、自動でレベリングを行う機能など、ユーザーの利便性を高める設計が随所に見られる点も、Kobra S1 Comboの大きな特徴です。
Anycubic Kobra S1 Comboのスペックを一覧で解説
Anycubic Kobra S1 Comboの購入を検討する上で、その詳細なスペックを把握することは非常に重要です。
ここでは、主な仕様を表形式で分かりやすくまとめました。
マルチカラーシステム「ACE Pro」が付属しない単体の「Kobra S1」との比較も参考にしてください。
項目 | Anycubic Kobra S1 Combo | Anycubic Kobra S1 (単体) |
---|---|---|
機械寸法 | プリンター: 400×410×490mm ACE Pro: 366×283×235mm | 400×410×490mm |
パッケージ重量 | S1C: 25.9kg | S1: 20.2kg |
構造 | CoreXY / 密閉型 | CoreXY / 密閉型 |
造形エリア | 250 × 250 × 250mm | 250 × 250 × 250mm |
最大プリント速度 | 600mm/s | 600mm/s |
推奨プリント速度 | 300mm/s | 300mm/s |
最大加速度 | 20,000mm/s² | 20,000mm/s² |
最大ノズル温度 | 320℃ | 320℃ |
最大テーブル温度 | 120℃ | 120℃ |
対応フィラメント | PLA, PETG, ABS, ASA | PLA, PETG, TPU, ABS, ASA |
マルチカラー対応 | ○ (ACE Pro1台で4色、最大8色) | × |
フィラメント乾燥 | ○ (ACE Proに搭載) | × |
押出機構 | デュアルギアダイレクトドライブ | デュアルギアダイレクトドライブ |
パネル | 4.3インチ静電容量式タッチスクリーン | 4.3インチ静電容量式タッチスクリーン |
カメラ/AI検出 | ○ | ○ |
停電再開機能 | ○ | ○ |
フィラメント検出 | ○ | ○ |
このように、基本性能はKobra S1と共通ですが、Kobra S1 ComboはACE Proが付属することでマルチカラー印刷とフィラメント乾燥機能が利用可能になる点が最大の違いです。
また、TPUフィラメントはACE Proシステムでの使用に対応しておらず、Kobra S1(単体)でのみ使用可能となっている点には注意が必要です。
Anycubic Kobra S1 Comboの印刷速度はどのくらい?
Anycubic Kobra S1 Comboの印刷速度は、最大600mm/sという業界トップクラスの性能を誇ります。
これは、従来の一般的なFDM方式3Dプリンターと比較して、印刷時間を劇的に短縮できることを意味します。
この高速印刷を実現しているのは、振動が少なく安定性に優れたCoreXY構造と、最大20000mm/s²という高い加速度性能の組み合わせによるものです。
一つの指標として、ベンチマーク用のモデルである「3DBenchy」をわずか15分程度でプリント完了させる能力を持っています。
これまで数時間かかっていた造形が、大幅に短い時間で手に入るのは大きな魅力です。
ただし、メーカーが推奨する印刷速度は300mm/sとなっています。
最高速度で印刷した場合、特に複雑な形状のモデルでは表面に「ゴースト」と呼ばれる波打ち模様が現れるなど、品質が若干低下する可能性も指摘されています。
そのため、通常運用では推奨速度である300mm/s前後で使用することが、品質と速度のバランスを取る上で最も現実的と言えるでしょう。
マルチカラー印刷はフィラメントの切り替えに時間がかかるため、従来は速度が大きな課題でしたが、Kobra S1 Comboはこの高速性能によってその弱点を克服し、スピードと品質を両立した快適な多色造形体験を提供します。
Anycubic Kobra S1 Comboの造形サイズについて
Anycubic Kobra S1 Comboが一度に印刷できる最大の造形サイズは、幅250mm × 奥行250mm × 高さ250mmです。
このサイズは、家庭用3Dプリンターのカテゴリにおいては「標準的」であり、多くのユーザーにとって十分な広さを提供します。
大きすぎず、小さすぎないこのサイズ感は、日常的な小物からある程度の大きさを持つモデルまで、幅広い用途に対応できる汎用性の高さが魅力です。
参考として、Bambulabの「P1S」も同じ250mm四方の造形エリアを持っており、このクラスの高性能機における一つの基準サイズと言えます。
特にマルチカラー印刷を行う上で、この造形サイズは重要な意味を持ちます。
マルチカラー印刷では、色を切り替えるたびにノズル内の古い色のフィラメントを排出する「パージ」という工程が必要になり、これが廃棄フィラメント(ゴミ)となります。
このパージで排出されるゴミの量は、一度に1個のモデルを印刷する場合と、同じモデルを複数個同時に印刷する場合とで、ほとんど変わりません。
したがって、250mm四方という広い造形エリアを活かして、小さなモデルであれば一度に数十個を並べて印刷することで、モデル1個あたりのフィラメント廃棄量を効率的に削減し、製作コストを抑えることが可能になります。
購入後に「作りたいものが入らなかった」と後悔しないためにも、この造形サイズは事前にしっかりと確認しておくべきポイントです。
Anycubic Kobra S1 Comboのレビュー解説|購入前の判断材料
Anycubic Kobra S1 Comboの価格は?
Anycubic Kobra S1 Comboの価格は、その高い機能性を考慮すると、非常に優れたコストパフォーマンスを実現しています。
2024年7月時点でのAmazon.co.jpにおける販売価格は、税込で120,999円となっています。
一方、マルチカラーシステム「ACE Pro」が付属しない3Dプリンター単体の「Kobra S1」は74,999円です。
これらの価格は、セールやクーポンによって変動する可能性があります。
この価格設定がどれほど魅力的かを理解するために、競合製品と比較してみましょう。
例えば、同様に密閉型CoreXY構造とマルチカラーシステムを持つBambu Labの「P1S Combo」は、約199,000円で販売されています。
Kobra S1 Comboは、フィラメント乾燥機能という独自の付加価値を持ちながら、競合よりも大幅に安価な価格帯を実現しているのです。
「マルチカラー印刷や密閉型、高速印刷といった先進的な機能を試してみたいけれど、20万円近い出費はためらわれる」というユーザーにとって、この価格は大きな決め手となるでしょう。
まさに、高性能3Dプリンターの導入ハードルを大きく下げ、より多くの人がカラフルな創造を楽しめるようにした戦略的な価格設定と言えます。
Anycubic Kobra S1 Comboのおすすめな点を解説
Anycubic Kobra S1 Comboには多くの魅力がありますが、特に購入をおすすめできるポイントを3つに絞って解説します。
フィラメント乾燥機能と自動供給
ACE Proに搭載されたフィラメント乾燥機能は、Kobra S1 Comboの隠れた、しかし非常に重要な強みです。
フィラメントは空気中の湿気を吸収しやすく、これが印刷品質の低下(糸引きや表面の荒れ、強度低下など)を招く大きな原因となります。
特に湿度の高い日本の環境において、印刷中もフィラメントを最大55℃で乾燥させ続けられるこの機能は、安定した高品質な造形に大きく貢献します。
さらに、フィラメント切れを検知し、同じ種類・色の予備フィラメントに自動で切り替えてくれるオートリフィル機能も備わっています。
これにより、長時間の印刷や大量生産の際も、フィラメント切れで中断するリスクを心配する必要がありません。
高難度素材も安定して印刷可能
密閉型のエンクロージャーを採用している点も、大きなメリットです。
筐体内部の温度を安定させることができるため、熱収縮による反りや層間剥離が起きやすいABSやASAといった、従来は扱いが難しかったエンジニアリングプラスチックの造形成功率を大幅に向上させます。
また、安定性に優れたCoreXY構造は、ベッドが激しく前後するベッドスリンガータイプと比べて振動が非常に少なく、高速印刷時でも安定した品質を維持することに貢献します。
初心者にも配慮したメンテナンス性
Kobra S1 Comboは、高性能でありながらユーザーフレンドリーな設計がなされています。
例えば、ノズルの交換は工具を一切使わずに行えるクイックスワップ式を採用しており、万が一の詰まりやメンテナンスの際もストレスがありません。
また、ボタン一つでレベリングからZ軸オフセットまでを全自動で行う「LeviQ 3.0」機能も搭載。
面倒なキャリブレーション作業から解放され、初心者でもすぐに高品質な印刷を開始できます。
Anycubic Kobra S1 Comboの注意点も確認
優れたコストパフォーマンスを誇るAnycubic Kobra S1 Comboですが、購入前に知っておくべきいくつかの注意点や、改善が期待される点も存在します。
これらのポイントを事前に把握しておくことで、購入後の後悔を減らすことができるでしょう。
フィラメント供給の安定性に関する課題
マルチカラーシステムACE Proは多くの利点をもたらしますが、フィラメントの供給が常にスムーズとは限らないという指摘があります。
特に、スプールの縁が補強されていない紙製のフィラメントなど、種類によってはスプールがうまく回転せず、引き込みに失敗する「ローディングエラー」が発生するケースが報告されています。
また、エラー発生後、印刷を再開した際にプリンターヘッドが予期せぬ動きをして造形物を破壊してしまう事例も確認されており、ソフトウェアのアップデートによる改善が待たれます。
各種自動補正機能の精度
Kobra S1 Comboは自動レベリング機能を搭載していますが、一部のレビューでは、キャリブレーション後もベッドとノズルの距離が完全に均一にならず、第一層の定着にムラが出ることがあると報告されています。
また、最高速度で印刷した際に、表面に微細な波打ち模様(ゴースト現象)が現れることもあり、共振補正機能にはまだ改善の余地があるようです。
安定した品質を求める場合は、推奨速度である300mm/s前後での運用が基本となります。
カメラ性能とAI機能の現状
印刷状況を遠隔で確認できる内蔵カメラは便利な機能ですが、その解像度は480pとあまり高くありません。
造形物の細部まで鮮明に確認する用途には向いておらず、あくまで印刷が進んでいるかどうかの大まかな状況確認用と考えるのが良いでしょう。
また、印刷失敗を検知するAI(スパゲティ検出)機能も、現状では印刷に問題がないにも関わらずエラーを検知して停止してしまうといった誤作動の報告があり、今後のアルゴリズム改善が期待されます。
Anycubic Kobra S1 Comboの評判・口コミまとめ
Anycubic Kobra S1 Comboについて、実際のユーザーからはどのような声が上がっているのでしょうか。
ここでは、 विभिन्नレビューサイトやSNSから集めた評判や口コミを、良い点と気になる点に分けてまとめます。
良い評判・口コミ
肯定的な意見として最も多く見られたのは、やはりその圧倒的なコストパフォーマンスに関するものです。
- 「マルチカラー、密閉型、乾燥機能がついてこの価格は破格」
- 「Bambu Labの半額以下で同等の機能が手に入るのは魅力的」
- 「印刷速度がとにかく速く、造形時間が大幅に短縮された」
- 「開封して簡単なセットアップだけですぐに印刷でき、品質も良好だった」
- 「これまで難しかったABSやASAが反りなく安定して印刷できるようになった」
このように、価格、機能、性能のバランスを高く評価する声が多数を占めています。
気になる評判・口コミ
一方で、改善を求める声や、使用上の注意を促す意見も見られます。
- 「フィラメントのローディングエラーが時々発生して印刷が止まる」
- 「紙製のスプールだとACE Proでうまく供給されないことがある」
- 「専用スライサーソフトの日本語訳が不自然で、まだ発展途上な印象」
- 「AIのスパゲティ検出が誤作動することがある」
- 「説明書が簡素で、3Dプリンター初心者には少し不親切かもしれない」
これらの口コミから、ハードウェアの基本性能は高いものの、ソフトウェアやセンサーの挙動、フィラメントの相性など、まだ安定性に欠ける部分があることがうかがえます。
総合すると、「価格を考えれば非常に高性能で満足度は高いが、いくつかのクセも理解した上で付き合っていく必要のあるマシン」というのが、大方の評価と言えるでしょう。
まとめ:Anycubic Kobra S1 Comboのレビュー解説
- Anycubic Kobra S1 Comboはマルチカラー印刷と乾燥機能を備えた高コストパフォーマンス機である
- 付属のACE Proシステムにより、基本4色、将来的には最大8色の多色印刷に対応する
- 最大印刷速度は600mm/s、推奨速度は300mm/sと非常に高速である
- 造形サイズは250×250×250mmで、家庭用として十分な広さを確保している
- 密閉型CoreXY構造を採用し、ABSやASAといった高難度素材の印刷にも強い
- 競合機種と比較して安価な10万円台前半という価格設定が大きな魅力である
- 一方で、フィラメント供給の安定性や自動補正機能の精度には課題があるとの指摘もある
- 内蔵カメラの画質やAI機能の誤作動など、改善が期待される点も存在する
- TPUフィラメントはACE Proシステムでは使用できず、単色でのみ印刷可能である
- 価格と機能のバランスに優れ、中級者以上のユーザーに特におすすめできるモデルである